海外赴任は出国前に確定申告が必要?給与だけなら不要・要る人の条件を人事が解説【出国時年末調整】
海外赴任で給与だけの人は、会社の「出国時年末調整」で所得税が精算され、確定申告は原則不要です。持ち家を貸す・株の売却益がある人は申告義務があり、医療費控除やふるさと納税の還付を受けたい人は任意で申告します。必要な人の見分け方と納税管理人の頼み方を、出国者の年末調整を処理してきた人事が解説します。
この記事で扱うのは、海外赴任で出国する「その年」の確定申告です(赴任期間中に毎年申告が続くケースは該当セクションで、帰国する年の話は別の記事で扱います)。
結論からお伝えします。給与しか収入がない人は、会社の「出国時年末調整」で所得税が精算されるので、自分で確定申告をする必要は原則ありません。会社の手続きだけで完結します。
自分で動く必要があるのは、次のどれかに当てはまる人です。
- 持ち家を貸す、副業があるなど、給与以外の収入がある(申告する義務があります)
- 株や不動産を売って利益が出た(同じく義務があります)
- 医療費控除やふるさと納税で還付を受けたい(義務ではありませんが、やらないと戻りません)
私は人事企画9年目で、海外赴任者を送り出す実務を約5年担当してきました。出国する社員の給与を締めて年末調整するのは、送り出す側の給与担当の仕事です。私はこの処理を何度もやってきました。だからこそ言えるのは、「会社がやってくれる範囲」と「自分でやる範囲」の線引きさえ分かれば、この件の不安はほとんど消えるということです。
この記事では、その線引きを分岐で示します。個別の税額や、あなたの申告書をどう書くかには踏み込みません。そこは税務署と税理士の領域なので、必要な人には最後にその案内をします。
| あなたの状況 | まず読むところ |
|---|---|
| 給与だけ。何もしなくていいか確かめたい | 出国時年末調整で完結する人 |
| 持ち家を貸す・副業・売却益がある | 申告する義務がある人 |
| 医療費・ふるさと納税で還付を受けたい | 申告すると得をする人 |
| 申告が必要そう。誰がいつやる? | 納税管理人という選択肢 |
給与だけなら「出国時年末調整」で完結する
▶ 私の答え:給与以外に収入がなく、還付狙いの控除もないなら、あなたは何もしなくて大丈夫です。会社の出国時年末調整で所得税は精算されます。
会社員が年の途中で海外赴任して非居住者になるとき、その年の1月1日から出国日までの給与について、出国の時点で年末調整を行います。これが「出国時年末調整」です。通常は12月に行う年末調整を、出国のタイミングで前倒しでやる、と考えてください。
このとき、出国の日までに支払った分の社会保険料控除・生命保険料控除・地震保険料控除や、配偶者控除・扶養控除・基礎控除は、出国時年末調整で反映されます。給与だけの人は、この精算で所得税の計算が完結します。追加の確定申告は要りません。
送り出す側の実務で言うと、出国する社員には出国前に扶養や保険料控除の申告書を書いてもらい、給与担当が年末調整の計算をして精算します。あなたの手元では「出国前に会社へ控除の書類を出す」で完了している、というのが給与だけのケースです。
実務では、精算のタイミングが会社によって違うことがあります。原則は出国の時点での年末調整ですが、私が見てきた中には、出国時ではなく通常どおり12月に精算する運用の会社もありました。どちらの場合も、所得税の計算対象が日本勤務期間(居住者期間)の給与であることは変わりません。還付や追加徴収が年末に来る形になるだけです。自分の会社がどちらのタイミングかは、給与担当に確認してください。
もう1つ、知っておくと安心な話を。毎月の給与から引かれる所得税は、「その給与水準で1年間働く」前提の税額表で計算されています。年の途中で出国して精算すると、想定より年収が少なかったことになるため、払いすぎていた所得税が還付されるケースが大半です。私が処理してきた範囲でも、追加徴収になる人より還付になる人のほうがずっと多い。出国時年末調整は、多くの人にとって「取られる手続き」ではなく「戻ってくる手続き」です。
赴任中に海外で受け取る給与には、日本の所得税はかかりません。この点はみなし税の記事で解説しています。
申告する「義務」がある人:出国前か、納税管理人か
▶ 私の答え:給与以外の収入がある人は、確定申告が義務です。やり方は2つ。出国前に自分で申告するか、納税管理人を立てて通常の時期に申告するかです。
次のような収入がある人は、出国時年末調整だけでは終わりません。確定申告が必要です。
- 持ち家を貸して家賃収入を得る(不動産所得)
- 株式や不動産を売って利益が出た(譲渡所得)
- 給与以外に一定額を超える副収入がある
これらは「還付を受けるかどうか」の話ではなく、申告しないと無申告になる種類のものです。読者がいちばん恐れる「知らずに放置して、後から無申告を指摘される」事態は、この収入がある人に起こり得ます。
申告のやり方は2つあります。
- 出国の時までに、自分で確定申告する(1月1日から出国日までの分を出国前に申告)
- 納税管理人を立てて、通常の申告時期(翌年2〜3月)に申告する
多くの人は2を選びます。出国準備で忙しい時期に申告作業まで抱えるより、あとで納税管理人経由で通常どおり申告するほうが現実的だからです。納税管理人については後のセクションでまとめます。
なお、持ち家を貸す場合の不動産所得は、出国する年だけの話ではありません。赴任中も毎年、納税管理人を通じた確定申告が続きます。1回やって終わりではないことは、貸すかどうかの判断材料に入れておいてください。
持ち家を貸す人には、もう1つ知っておいてほしい仕組みがあります。非居住者が受け取る家賃は、借主の側に20.42%の源泉徴収義務が生じることがあります(借主が自分や親族の住居として借りる個人の場合は、源泉徴収は不要です)。
貸主であるあなたから見ると、こうなります。源泉徴収の対象になる場合、家賃から約2割が引かれた金額が振り込まれます。家賃10万円なら、受け取りは約8万円です。ただし引かれた分は取られっぱなしではありません。確定申告で、管理費や修繕費などの経費を差し引いた所得から税額を計算し直し、源泉徴収されていた分のほうが多ければ差額が還付されます。「手取りが減る」のではなく「前払いして、申告で精算する」という関係です。
借主が法人(社宅として借りる会社など)か個人かで扱いが変わるうえ、管理会社を挟む場合の実務もあります。この論点は複雑なので、貸し出す前に税務署か税理士に一度相談することをおすすめします。
株や不動産の売却益がある人は、赴任中の配当や譲渡の税金という別の論点にもつながります。投資家向けには別の記事で詳しく扱います。
申告すると「得」をする人:医療費控除・ふるさと納税
▶ 私の答え:医療費控除とふるさと納税の還付は、出国時年末調整では処理されません。放置しても罰則はありませんが、申告すれば戻るお金を取りこぼすことになります。
出国時年末調整で反映されない控除があります。代表が次の2つです。
- 医療費控除(その年に医療費がかさんだ人)
- 寄附金控除(ふるさと納税)
これらは、もともと年末調整では扱えず、確定申告でだけ受けられる控除です。日本にいる年でも、会社員が医療費控除を受けるには、年末調整とは別に自分で確定申告をする仕組みになっています。出国する年も理屈は同じです。勤務先の出国時年末調整では処理できないので、還付を受けたいなら自分で確定申告をする必要があります。やり方は、出国前に自分で申告するか、納税管理人を立てて通常の時期に申告するかの2つです。
ふるさと納税をしている人は、もう1点注意があります。ワンストップ特例は、確定申告をしない給与所得者向けの簡便な仕組みです。出国にともなって確定申告をすることになった場合、ワンストップ特例で申請済みの分も含めて、確定申告で寄附金控除をやり直す必要があります。出国する年の寄付は、ワンストップのつもりが確定申告に切り替わる、と覚えておいてください。ふるさと納税の基本は会社員のふるさと納税完全ガイドで解説しています。
なお、住宅ローン控除の1年目(初めて控除を受ける年)も確定申告が必要な項目ですが、出国と重なる場合の扱いは個別性が高くなります。住宅ローン控除がある年に出国する人は、税務署か税理士に確認してください。持ち家と帰国後の再適用については住民票の記事でも触れています。
納税管理人という選択肢
▶ 私の答え:納税管理人は、日本に残るあなたの代理で税金の手続きをする人です。家族で構いません。特別な資格は要りません。
確定申告が必要な人が海外にいると、申告書の提出や税金の納付、税務署からの書類の受け取りを日本国内で行う人が必要になります。それが納税管理人です。
ポイントは3つです。
- 資格は不要。日本に住む家族で構いません(配偶者や親などが一般的です)
- 出国の日までに、あなたの納税地(多くは出国前の住所地)を管轄する税務署へ「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を出す
- 納税管理人がいれば、通常の申告時期(翌年2〜3月)に、日本にいるときと同じ流れで確定申告ができる
納税管理人を立てずに出国すると、確定申告が必要な人は「出国の時まで」に申告を済ませなければなりません。準備の時間が取れないなら、先に納税管理人を届け出ておくほうが、時間の余裕という意味でも安全です。
納税管理人は住民税の手続きにも関わります。住民税の精算方法とあわせて考えたい人は海外赴任の住民税はいつまで払う?を参照してください。
よくある疑問4つ
Q1. 給与だけの会社員。本当に何もしなくていい?
出国時年末調整で所得税が精算されていれば、追加の確定申告は原則不要です。ただし「給与だけ」の前提が崩れる要素——持ち家を貸す、株を売る、医療費やふるさと納税で還付を受けたい——があると、話が変わります。これらのどれにも該当しなければ、会社の手続きで完了しています。
Q2. 出国前は時間がない。申告は帰国後でもいい?
申告義務がある収入(不動産所得・譲渡所得など)については、帰国まで放置はできません。納税管理人を立てて、通常の申告時期に申告するのが基本の流れです。還付目的の医療費控除・ふるさと納税は、対象の年の翌年1月1日から5年以内なら後からでも申告できますが、確実なのは納税管理人経由で通常どおり申告することです。
Q3. 会社(勤務先)は確定申告まで手伝ってくれる?
会社がやるのは、給与についての出国時年末調整までです。あなた個人の不動産所得や医療費控除の確定申告は、会社の業務範囲外です。人事に聞いても「各自で」と案内されるのはこのためで、冷たいわけではありません。個人の申告は、税務署か税理士が相談先になります。
Q4. 自分のケースが分岐のどれか分からない
判断に迷う要素(複数の収入がある、売却のタイミングが出国とまたぐ、など)があるなら、税務署の窓口か税理士に相談してください。出国前は税務署も混みますが、電話相談もあります。この記事は「相談が要るかどうかの見分け」までをお手伝いするもので、最終的な判断は専門家に確認するのが確実です。
まとめ
- 給与だけの人は、出国時年末調整で完結。確定申告は原則不要
- 持ち家を貸す・売却益がある・副収入がある人は申告義務あり。出国前に自分でやるか、納税管理人を立てる
- 医療費控除・ふるさと納税の還付は出国時年末調整では処理されない。受けたいなら確定申告
- ふるさと納税は、出国で確定申告に切り替わるとワンストップ特例をやり直す
- 納税管理人は資格不要・家族で可。出国前に税務署へ届け出る
- 個別の税額や申告書の書き方は、税務署か税理士へ。この記事は「必要かどうかの見分け」まで
注:本記事の内容は2026年7月時点の情報に基づいた一般的な解説です。個別の申告の要否や税額は、国税庁(海外勤務と所得税額の精算)や国税庁(海外勤務と納税管理人の選任又は解任)を確認のうえ、税務署または税理士にご相談ください。
マネパパ
30代会社員・人事企画部門・JGCホルダー。従業員持株会を3年で停止し、インデックス投資(新NISA・iDeCo)に全面移行。 マイルで乳幼児連れリゾート旅行を実践中。数字とリアルにこだわった発信を心がけています。
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