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海外赴任のみなし税とは?給料から引かれる理由と計算例を制度設計側の人事が解説【手取り保証の仕組み】

海外赴任のみなし税(みなし所得税・みなし住民税)とは、日本で働いていたら納めていたはずの税金相当額を給与から差し引く社内制度で、国に納める税金ではありません。なぜ引かれるのか、月給40万円モデルの計算例、明細で確認すべき3点まで、赴任者の給与制度を設計してきた人事が解説します。

海外赴任みなし税海外赴任の給与人事部員視点

海外赴任の給与明細にある「みなし税」とは、あなたが日本で働き続けていたら納めていたはずの所得税・住民税に相当する額を、給与から差し引く社内制度のことです。国や自治体に納める税金ではありません。

では引かれた分はどこへ行くのか。会社は代わりに、赴任先の国で発生するあなたの税金を負担します。結果として、多くの日系企業では手取りが日本勤務時と同じ水準に保たれる設計になっています。二重に取られているわけではありません。

私は人事企画9年目で、海外赴任者の給与制度を設計・運用する側を約5年担当してきました。処遇説明会のあとに「結局、自分は損していませんか?」と個別に聞きに来る人を、何人も見てきました。毎月数万円が引かれるなら、疑って調べるのが正常です。

この記事では、みなし税の正体、なぜ引かれるのかという設計側の理屈、月給40万円モデルの計算例、明細で確認すべき3点の順で解説します。

知りたいことまず読むところ
意味だけ手短に知りたいみなし税の正体
なぜ引かれるのか納得したい手取り保証の仕組み
金額感・明細の見方を知りたい月給40万円モデルの計算例
出国前の税額より高い気がするみなし税の計算方式は3つある
損していないか不安よくある疑問4つ

みなし税の正体:「税金」ではなく「社内の控除」

私の答え:みなし税は税務署にも市役所にも行きません。「日本にいたらこれくらい払っていたはず」という計算上の額を、会社があなたの給与から預かる社内のルールです。

名前が紛らわしいので、先に整理します。

名称正体納め先
所得税・住民税(日本勤務時)本物の税金国・市区町村
みなし税(みなし所得税・みなし住民税)社内の控除。日本にいた場合の税額に相当会社(納め先はない)
赴任先の国の所得税本物の税金赴任先の国(会社が負担

「みなし所得税」「みなし住民税」と分けて書く会社も、まとめて「みなし税」と書く会社もあります。英語の資料ではハイポタックス(hypothetical tax)と呼ばれますが、同じものです。

ポイントは1つだけ。赴任中のあなたの給与から引かれる「税金のようなもの」は、原則このみなし税1本だということです。日本の所得税は、非居住者になって国外で働く限り、給与に対して原則発生しません。住民税も出国の翌年度からかかりません(住民票と住民税の関係は海外赴任の住民票どうする?で詳しく解説しています)。

例外は出国をまたぐ賞与です。賞与の計算期間に日本勤務の期間が含まれていると、その期間分には20.42%の源泉徴収がかかります。出国後最初の賞与明細に「所得税」が載っていても、間違いではありません(出国前後の税金の手続きは別の記事で詳しく解説します)。現地の税金は会社が納めます。


なぜ給料から引かれるのか:「手取り保証」の仕組み

私の答え:「税の高い国に行く人も、低い国に行く人も、同じ仕事なら同じ手取りにする」ための仕組みです。引かれているのではなく、揃えられています。

仕組みは3ステップです。

  1. 会社はまず、あなたが日本で勤務し続けた場合の手取りを計算します(このとき差し引く仮の税額がみなし税です)
  2. その手取り額を赴任中も保証し、海外勤務手当などを上乗せします
  3. 赴任先の国で実際に発生する税金は、金額がいくらであっても会社が負担します

みなし税は「徴収」というより、手取りの基準線を日本勤務時に揃えるための物差しです。

制度を設計する側が、なぜこの方式を選ぶのか。理由は3つあります。

1つ目は公平性です。所得税の水準は国によってまったく違います。実際の現地税をそのまま本人負担にすると、高税率の国へ赴任した人だけ手取りが減り、「どこへ赴任を命じられたか」で年収が変わってしまいます。それでは高税率国への赴任が罰になり、誰も行きたがりません。みなし税方式なら、全員が「日本にいた場合」という同じ物差しで揃います。

2つ目は、赴任者を現地の税務から解放するためです。現地の確定申告や納税は、会社と契約税理士が処理します。あなたが赴任先の税法と格闘する必要はありません。

3つ目は、帰任後の生活設計が崩れないようにするためです。手取りの基準が日本勤務時のままなら、住宅ローンや教育費の計画は赴任をまたいでも読み続けられます。

設計側の思想を一言で言えば、「税では得も損もさせない。海外勤務の大変さには、税ではなく手当で報いる」です。赴任で収入が増えるとすれば、それは手当が乗るからであって、税金で得をしているからではありません。


計算例:月給40万円モデルで見るビフォーアフター

私の答え:控除の合計はおよそ8〜9万円で、日本勤務時とほぼ同じ。変わるのは「本物の税金」が「みなし税」に置き換わる中身のほうです。

単身・扶養なし・月給40万円のモデルで比べます(金額は概算です。扶養構成や会社の制度で変わります)。

項目日本勤務時海外赴任中
月給(基準給与)40万円40万円
社会保険料(健保・厚生年金・雇用保険)約6.0万円約6.0万円(継続・実額
所得税約0.9万円なし(非居住者のため)
住民税約1.9万円なし(出国翌年度から)
みなし税約2.8万円(所得税+住民税相当)
手取り約31.2万円約31.2万円(同水準)

ここに海外勤務手当やハードシップ手当が上乗せされ、現地の税金は会社が別途負担します。

2点だけ補足します。

まず、社会保険料は「みなし」ではなく本物が引かれ続けます。海外赴任中も日本の会社に籍がある限り厚生年金と健康保険は継続するので、保険料の本人負担分は実額の控除です。将来の年金額が積み上がり続けている、という意味では安心材料です。

次に、処遇シミュレーション表の「▲8万円」のような控除額は、みなし税と社会保険料の合計で書かれている場合と、みなし税単体の場合があります。会社の様式によって見え方が違うので、確認のしかたをこのあと順番にまとめます。


「出国前より高い」と感じたら:みなし税の計算方式は3つある

私の答え:人事部員として一番多く受けた問い合わせが、まさに「みなし税が出国直前の税額より高い。損していないか」でした。多くの場合、損ではなく会社の計算方式のクセが原因です。

みなし税の額をどう決めるかは会社によって違い、大きく3つの方式があります。

方式中身強み弱み
(1) 実額引き継ぎ出国直前の実際の税額をそのまま使う実額とズレにくい昇給や家族構成の変化を反映しにくい
(2) 社内シミュレーション給与システムで「日本にいた場合」を都度計算昇給・扶養の変動に追従でき、赴任者間の公平を保ちやすい会社側の計算の手間が大きい
(3) 外部データ適用年収帯×扶養人数の既製データを購入して当てはめる会社はシミュレーション不要個人ごとの控除を拾えず、実額とズレやすい

「出国前より高くなっている」という違和感は、経験上、(3)の方式で起きやすいものです。理由は2つあります。1つは、生命保険料控除のような個人ごとの控除がデータに反映されないこと。もう1つは、年収ベースで算出したみなし税の年額を月給と賞与に割り振るため、その割合が実際と違うと、月給では実額より多く引かれ、賞与では少なく引かれる(またはその逆の)見え方になることです。年間トータルで見るとズレが縮む設計になっていることが多いので、月の明細1枚だけで損得を判断しないでください。

また、どの方式でも、赴任者が不利にならないようにみなし税を理論値の90%に割り引く(10%分安くする)などの調整を入れている会社もあります。「思ったより高い」と感じた額が、規程を確認したら割引後だった、ということもあります。

自分の会社がどの方式かは、人事への質問1つで分かります。「みなし税は実額引き継ぎですか、シミュレーションですか、外部データですか」——この聞き方なら、担当者に一発で通じます。次のセクションの3点とあわせて確認してください。


明細・シミュレーション表で確認する3点

みなし税の金額が妥当かどうかは、次の3つを確認すれば判断できます。

  1. 名称と内訳:「みなし所得税」「みなし住民税」が分かれているか、社会保険料は別行か。合計だけ見て「多い」と感じているケースが一番多いです
  2. 計算の基準:基本給だけが基準か、手当や賞与も含むか。扶養家族が反映されているか(みなし税は家族構成で変わります。日本の税金と同じです)
  3. 改定のタイミング:昇給時・税制改正時に見直されるか。みなし住民税を赴任前年の所得で固定する会社と、毎年見直す会社があります

この3つを人事の担当部署に聞けば十分です。「みなし税の計算基準と改定タイミングを教えてください」——この一文で、必要な答えは全部返ってきます。

なお、賞与にもみなし税がかかるのが一般的です。明細の見え方は月給と同じ考え方で確認できます。


よくある疑問4つ

Q1. 現地でも税金がかかるなら、二重に取られていない?

取られていません。赴任中にあなたの給与から引かれる税金相当はみなし税の1本だけです。日本の所得税・住民税は発生せず、現地の税金は会社が納めます。むしろ、会社があなたの代わりに現地でいくら納めているかは明細に出ないことが多く、高税率国ではみなし税より大きい金額を会社が負担しているケースもあります。

Q2. 「海外赴任は税金が安くて得」と聞いたのに、話が違う?

その噂の正体を分解すると、「税で得」ではなく「手当で得」です。みなし税方式では、税率の低い国へ行っても手取りは日本基準のまま変わりません(実際の現地税との差額は会社側に帰属します)。赴任で収入が増えるのは、海外勤務手当・ハードシップ手当などが上乗せされるからです。「税金が安い国だから得をした」は、みなし税方式の会社では起きません。

Q3. ハイポタックスとは違うもの?

同じものです。ハイポタックス(hypothetical tax=仮定の税)は、みなし税の国際人事用語です。外資系企業や税務資料ではこちらの表記が使われます。

Q4. みなし税は年末調整や確定申告で戻ってくる?

戻りません。みなし税は税金ではないので、年末調整にも確定申告にも登場しません。出国前の給与に対する「出国時の年末調整」は別の手続きとして存在します。出国前の税金の手続きは、別の記事で詳しく解説します。


まとめ

  • みなし税は「日本にいたら納めていたはずの所得税・住民税に相当する社内の控除」。国に納める税金ではない
  • 代わりに現地の税金は会社が負担し、手取りは日本勤務時と同水準に保たれる(手取り保証)
  • 目的は公平性。「どこの国へ赴任したか」で手取りが変わらないように揃えている
  • 社会保険料は「みなし」ではなく実額が継続。厚生年金は積み上がり続ける
  • 金額の妥当性は「内訳・計算基準・改定タイミング」の3点を人事に聞けば確認できる
  • 「出国前より高い」と感じたら、会社の計算方式(実額引き継ぎ/社内シミュレーション/外部データ適用)を確認する。月の明細1枚だけで損得を判断しない

みなし税は法律で決まった制度ではなく、各社が設計する給与制度です。この記事は一般的な設計を解説したもので、あなたの会社の正確なルールは赴任規程と人事の説明が優先します。それでも、「聞くべきことが分かっている状態」で説明会に臨めば、不安はほとんど消えるはずです。


注:本記事の内容は2026年7月時点の情報に基づいています。非居住者の課税関係の公式情報は国税庁をご確認ください。


マネパパ

マネパパ

30代会社員・人事企画部門・JGCホルダー。従業員持株会を3年で停止し、インデックス投資(新NISA・iDeCo)に全面移行。 マイルで乳幼児連れリゾート旅行を実践中。数字とリアルにこだわった発信を心がけています。

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